無料でできる!中小企業の情報漏洩防止対策:ウェブサイトと社内システムの安全確保
はじめに
情報漏洩や不正アクセスは、現代のビジネスにおいて中小企業にとっても他人事ではない重大なリスクです。一度発生すれば、企業の信頼失墜、顧客からの信用低下、経済的損失、さらには事業継続そのものが危ぶまれる事態に発展する可能性もあります。しかし、専門のセキュリティ業者に依頼するほどの予算は確保できない、何から手をつければ良いか分からない、といった悩みを抱える経営者の方も少なくありません。
この度、本記事では、限られた予算の中でも、特に費用をかけずに実践できるウェブサイトや社内システムのセキュリティ対策に焦点を当て、情報漏洩を防ぐための具体的な方法を分かりやすく解説いたします。専門知識がなくてもすぐに取り組める内容ですので、ぜひご自身の事業所に取り入れてみてください。
不正アクセスと情報漏洩のリスクを理解する
不正アクセスとは、権限のない者がコンピューターやネットワークに侵入し、システムを操作したり、情報を窃取したりする行為を指します。これにより引き起こされるのが情報漏洩です。顧客情報、従業員情報、取引先のデータ、企業の機密情報などが外部に流出してしまいます。
中小企業は「狙われないだろう」と考えがちですが、実際には大手企業よりもセキュリティが手薄なため、サイバー攻撃の標的となりやすい傾向があります。特定の企業を狙う標的型攻撃だけでなく、無作為にばらまかれる攻撃によって思わぬ被害に遭うこともあります。
費用をかけずにできる情報漏洩防止対策の基本
ここでは、コストを抑えつつ、ウェブサイトや社内システムの情報漏洩リスクを大幅に低減するための具体的な対策をご紹介します。
1. パスワードの強化と管理を徹底する
パスワードは、ウェブサイトやシステムへの不正アクセスを防ぐための最初の砦です。
- 推測されにくいパスワードを設定する:
- 氏名、誕生日、電話番号など、個人を特定できる情報は避けてください。
- 英大文字、英小文字、数字、記号を組み合わせ、最低10文字以上の長さを持つパスワードを設定することが推奨されます。
- 例:「Password123!」のような安易な組み合わせではなく、「Rk9pL@sT2qFv」のように、意味を持たないランダムな文字列がより安全です。
- パスワードの使い回しを避ける:
- 複数のサービスやシステムで同じパスワードを使用すると、どこか一つの情報が漏洩した際に、他のサービスも危険に晒されてしまいます。サービスごとに異なるパスワードを設定してください。
- 二段階認証(多要素認証)を活用する:
- パスワードだけでなく、スマートフォンアプリの認証コードや指紋認証など、複数の要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。多くのオンラインサービスやウェブサイト管理画面で無料で提供されており、不正アクセスの防止に極めて有効です。利用可能な場合は積極的に導入を検討してください。
2. OSとソフトウェアは常に最新の状態に保つ
パソコンのOS(Windows、macOSなど)や、業務で利用するソフトウェア(Webブラウザ、PDF閲覧ソフト、Officeソフト、ウェブサイトを構築しているCMSなど)には、脆弱性と呼ばれるセキュリティ上の弱点が見つかることがあります。
- 自動更新機能を有効にする:
- 脆弱性を悪用した攻撃を防ぐため、OSやソフトウェアの提供元は定期的に修正プログラム(セキュリティパッチ)を公開しています。これらを速やかに適用することで、システムを安全に保つことができます。多くのOSやアプリケーションには自動更新機能が備わっていますので、これを有効にしておくと安心です。
- 不要なソフトウェアは削除する:
- 使用していないソフトウェアは脆弱性の原因となることがあります。セキュリティリスクを減らすためにも、不要なソフトウェアは定期的にアンインストールしてください。
3. アクセス権限を最小限に設定する
社内システムや共有ファイルサーバー、ウェブサイトの管理画面などへのアクセス権限は、必要最小限に設定することが重要です。
- 「必要な人に、必要な情報だけ」の原則:
- 業務上、特定の情報や機能へのアクセスが必要な従業員にのみ、その権限を付与してください。全員に管理者権限を付与したり、全ての情報へのアクセスを許可したりすることは、情報漏洩のリスクを高めます。
- 退職者のアカウント管理:
- 従業員が退職する際には、速やかにアカウントを削除するか、アクセス権限を停止してください。これを怠ると、退職者がシステムにアクセスできてしまうという重大なセキュリティホールになりかねません。
4. ウェブサイトやシステムの基本的なセキュリティ設定を確認する
自社のウェブサイトやサーバー、あるいは利用しているクラウドサービスには、無料で設定できるセキュリティ機能が用意されている場合があります。
- SSL/TLSの導入:
- ウェブサイトと閲覧者の間の通信を暗号化する仕組みです。「http://」ではなく「https://」で始まるURLがこれに該当します。多くのレンタルサーバーでは、無料でSSL/TLS証明書を提供しています。これにより、ウェブサイト上で入力された情報(個人情報など)が盗み見されるリスクを低減できます。
- 管理画面へのアクセス制限:
- ウェブサイトの管理画面やサーバーのコントロールパネルは、外部からアクセスできる状態になっています。特定のIPアドレス(会社で使用している固定IPアドレスなど)からのみアクセスを許可する設定や、多要素認証の導入など、アクセス経路を限定する設定を検討してください。
- ログインログの定期的な確認:
- ウェブサイトのCMS(WordPressなど)やレンタルサーバーの管理画面には、ログイン履歴が残されています。不審な時間に不審なIPアドレスからのログイン試行がないか、定期的に確認する習慣をつけましょう。
5. 不審なメールやファイルには細心の注意を払う
不正アクセスや情報漏洩の入り口として最も多いのが、従業員が誤って不審なメールを開いたり、添付ファイルを実行したりすることです。
- フィッシング詐欺に注意する:
- 実在の企業やサービスを装い、偽のウェブサイトへ誘導して個人情報やパスワードを盗み取ろうとする詐欺です。メールの送信元アドレス、URLのスペル、不自然な日本語などを確認し、少しでも怪しいと感じたら安易にクリックしないようにしてください。
- 身に覚えのない添付ファイルやURLは開かない:
- マルウェア(悪意のあるソフトウェア)が仕込まれている可能性があります。送信元が不明なメールや、内容に心当たりのないメールの添付ファイルは絶対に開かず、URLもクリックしないでください。
社内セキュリティルールの策定を検討する
上記の対策を従業員任せにするのではなく、社内全体でセキュリティ意識を高め、統一されたルールを設けることが重要です。正式なセキュリティポリシーの作成は専門的な知識を要しますが、まずは基本的な「社内ルール」として以下のような項目を定めてみましょう。
- パスワード設定と管理に関するルール
- 個人情報や機密情報の取り扱いに関するルール
- 不審なメールやウェブサイトへの対応ルール
- 業務用PCの持ち出しに関するルール
ひな形や参考情報としては、IPA(情報処理推進機構)のウェブサイトなどで、中小企業向けのセキュリティガイドラインやチェックリストが公開されています。これらを参考に、自社に合ったルールを作成してください。
まずはここから!すぐに始められるチェックリスト
- ウェブサイトや社内システムのパスワードは、複雑でサービスごとに異なるものになっていますか?
- 二段階認証(多要素認証)が利用可能なサービスでは、導入済みですか?
- OSや業務で利用するソフトウェアの自動更新は有効になっていますか?
- 使っていない古いソフトウェアは削除されていますか?
- ウェブサイトや社内システムへのアクセス権限は、必要最小限に設定されていますか?
- 退職者のアカウントは速やかに削除または停止されていますか?
- ウェブサイトにはSSL/TLS(URLが「https://」)が適用されていますか?
- ウェブサイト管理画面などへのアクセス元IPアドレス制限を検討していますか?
- 不審なメールや添付ファイルに対する従業員への注意喚起はできていますか?
おわりに
情報漏洩や不正アクセス対策は、一度行えば終わりというものではありません。技術の進化とともに脅威も変化するため、継続的な見直しと対策が必要です。しかし、今回ご紹介した対策は、いずれも費用をかけずに、今すぐにでも始められるものばかりです。
まずはこのチェックリストを活用し、自社のセキュリティ状況を確認することから始めてみてください。小さな一歩の積み重ねが、大切な情報と事業を守る大きな力となります。ご不明な点があれば、信頼できるIT担当者や専門家にご相談いただくことも有効です。